カメムシに例えられるほど強烈な香りが特徴のパクチー。大好きか大嫌いか、これほどまでに世論を二分する食べ物はあまりないだろう。
パクチーが苦手な人は、いわゆる「カメムシ臭」のするフレッシュなリーフをイメージする人が多い。しかし、カレーのスパイスとしてよく使われている「コリアンダー」と同じ植物であることに気づいていない人もいるかもしれない。種の部分をコリアンダー、葉っぱの部分をパクチーと呼び分けられていることもあるが、結局は同一の植物。パクチーは、みんなが苦手な葉っぱだけでなく種や花、根っこ、茎まで食べられる、とても多様な顔を持つ植物なのだ。
主役にはなれないけど、エスニック料理の定番とも言えるパクチーの魅力とは何なんだろうか。東京世田谷区で世界初となるパクチー専門料理店「パクチーハウス」の店長として、パクチー料理を先駆けて伝えてきた「旅するパクチー料理人」牛田うっしぃさんをご紹介したい。
うっしぃさんは、とにかく緑とパクチーが大好きで、持っている服はほとんど緑。ハンカチや手ぬぐい、バッグなど持ち物も当然みんな緑で、それもこれもパクチーを愛するが由なのだ。「パクチーは人生のパートナー」と表現するうっしぃさんがベタ惚れするパクチーの魅力について話を聞いてきた。
Q: 今日はお時間ありがとうございます。まず、簡単に自己紹介をお願いできますか?
”パクチーを日本の食文化に定着させたい”という想いで、「旅するパクチー」というプロジェクトを主宰しています。
コロナ以前は全国のパクチー農家さんを巡りながら、パクチーパーティーや出張パクチー料理人、地方で地元の食材と合わせたパクチーイベントなどを開催していました。
今は移動が制限されているので、「シェアパクチー」という飲食店さんへの卸売や、パクチーに関する研究・新たなレシピの制作に力を入れています。
Q: パクチーに関わるようになった経緯を教えてください。
旅が好きなので、昔から世界の料理に興味がありました。学生の頃は手に入りにくかったパクチーを電車に乗ってデパ地下まで買いに行き、アジア料理好きの友達と生春巻を作ったりしていましたね。
パクチーに人生をかけようと思ったのは、2007年に世田谷でオープンした世界初のパクチー料理専門店「パクチーハウス東京」の店長として、パクチー農家さんと関わったことがきっかけです。ブームになる前からパクチー栽培に挑戦していた農家さんは個性的な人が多く、交流するうちに彼らのパクチー愛に大きな刺激を受けました。
当時、日本ではパクチーはまだ珍しかったので、お客さんも面白い人が多かったです。居合わせたお客さん同士がパクチーを通じて勝手に交流して仲良くなっていく様子を見て、人が集まる交流のツールとしてのパクチーに魅力を感じました。
その後、多くのメディアでとりあげられたことで認知度が上がり、一般のスーパーや道の駅でも売られるようになり、一気に消費量は増えたように思います。3年前に閉店してからは「旅するパクチー」を立ち上げ、個人でパクチーに関するあらゆる活動をしています。
Q: パクチーの魅力ってなんですか?
パクチーって、世界中で食べられてるんです。パクチーはタイ語で、英語ではコリアンダー、和名はコエンドロ(ポルトガル由来)、中国では香菜(シャンツァイ)、アメリカだとスペイン語由来でシラントロ(Ciantro)と呼ばれています。その他にもタガログ語や、地域によって呼び名は色々あるんですけど、要は、パクチーって世界中で食べられているものなんです。日本だとタイなどアジア料理のイメージが強いんですが、発祥は地中海沿岸で、ロシアやブルガリアなどでも多く栽培されています。真夏のイメージが強いパクチーが実は暑さに弱いと聞いて、意外に思う人も多いのではないでしょうか。
モンゴルや中国、中央アジアでは羊の肉と合わせる料理があったり、中南米やモロッコ・ジョージアなど多くの地域で日常的に使われています。使い方は多様で地域による違いが面白いですね。
世界の食文化の共通言語としてのパクチーの可能性を感じます。
Q: 暑いのがだめで、ロシアが一大生産地とのことですが、東南アジアで栽培されているパクチーは品種が違うんでしょうか?
パクチーの種類はよく聞かれます。種の産地による味や香りの違いはありますが、土壌や気候、生育状況によってもかなり変わってきます。一度雪中パクチーを食べたことがあるのですが、とっても甘味が強く感動しました。
タイ産の種をこだわっている農家さんもいますし、最近ではヨーロッパ産を使っているという話もよく聞きます。
ちなみに市場に出回っているスパイス用コリアンダーシードはモロッコ産が有名ですが、甘い香りが強めのインド産もあります。色も形も違うのでおもしろいですよ。
Q: パクチーはどこで手に入りますか?
最近はどこの都道府県でも作っているので、小さなスーパーや道の駅でもおいていると思います。なければ生産者から買うか、私自身、種を配っているので、ぜひベランダで自分で育ててほしいです。それでもどうしても手に入らない人向けに、パクチー専門のECサイトをオープン予定です。
Q: オススメの食べ方を教えてください。
日本で見られるようなパクチーを山盛りにして食べる文化は独自のもので、今まで食べたなかでは、ジョージア料理がパクチーをたっぷり使う印象があります。他の国ではディルなどのハーブと混ぜてサラダや付け合わせにしたり、薬味的・スパイスとして使われることが多いです。
メンマとパクチーの組み合わせは美味しいですよ。ザーサイにネギとパクチーを合わせたり、軽く塩をしてごま油とあえるのもオススメです。青パパイヤのソムタムのように、根っこも美味しく食べられるし、お花はエディブルフラワーにもなります。
パクチーは国によって食べ方が本当に違うので、それを知って、その多様性を楽しんでほしいですね。
Q: パクチーが嫌いな人に何かメッセージはありますか?
苦手な人は絶対無理だと思っているけど、たぶん気のせいです(笑)
パセリやセリとおなじセリ科なので、調理仕方によっては食べやすくなるんです。匂いが苦手な人には、火を通したり、漬物にすると食べやすくなります。スーパーで買うものは苦手だけど、農家さんから直接買うと、思ったほど臭くなかったり、甘くてシャキシャキしておいしいとびっくりする人もいます。嫌いだった人ほど、克服すると人一倍好きになる人も多いんですよ!
葉っぱは苦手だけど、コリアンダーシードなら大丈夫な人もいます。パクチーと同じ植物だと認識していない人もいるくらい味が違います。コリアンダーシードは、なんといっても挽きたてが最高に美味しいんです。柑橘系の爽やかな香りがするので、ぜひペッパーミルで粗挽きにして使ってもらいたいです。
粉末の種は、カレーはもちろんフレンチのカトルエピス(4種類のブレンドスパイス)と合わせて肉に擦り込んで焼いたり、粗挽きでクッキーに入れたり、種が熟す前の青い実をオイルやビネガーに漬けてもおいしいです。
パクチーが苦手な人はフレッシュな葉の匂いをイメージする人が多いですが、根っこ、葉っぱ、花、種、スプラウト、全部食べられるし印象が違います。ぜひ葉っぱだけじゃなくて、種や花を食べてもらいたいです。カレー好きの人は絶対知らず知らずのうちに実は食べているはずなので、嫌いだといってる人に限って、知れば知るほど病みつきになりますよ!
パクチーを使ったオススメレシピ:生魚のセビーチェ
ペルー料理であるセビーチェは、魚介類をライムとパクチーでさっぱり食べる夏にぴったりの一品。
今回は白身魚を使いましたが、タコやホタテなどでも美味しくできます。トマトやキュウリなど野菜を増やし、もりもりサラダにするのもおすすめです。生の青唐辛子を使うと、風味がグンとアップします!
<材料>
白身魚 100g
パクチー 2−3株
赤玉ねぎ 小1/2個
ライム 1/2個
自然塩 ひとつまみ
唐辛子 少々
ニンニク 少々
<レシピ>
白身魚を1〜1.5cmくらいの角切りにして、自然塩と絞ったライムで表面が白っぽくなるまで漬ける。
赤玉ねぎを薄くスライスして、水にさらす。
唐辛子を細かく刻み、すりおろしたニンニクと1に入れあえる。
ざく切りしたパクチーと水切した赤玉ねぎをあえ、冷蔵庫で5分くらい軽くなじませれば出来上がり!
以上、パクチー研究家へのインタビューだった。
筆者は今まで、世界中のバイヤーと日本の茶産地をつなぐ仕事をしてきた。世界中どこにでもあるお茶という植物を媒介にして、人々が繋がり、仲良くなっていく様子を見てきた。パクチーに関しても、植物を通じて人が心を通いあわせるシーンは想像に難くなかった。
文化や言語が違っても、好きなもの、情熱を注げる何かの共通点に出会ったとき、人は心を通いあわせ、絆が生まれる。共通言語は食べ物でなくても、音楽でもいいし、ファッションや芸術でもいいかもしれない。何かにかける情熱や偏愛が人を呼び、結びつけるのだろう。世界平和のための偏愛万歳である。
プロフィール
牛田うっしぃ
旅するパクチー 主催。 旅好き、人好き、食好き、パクチー大好き!! 元パクチーハウス東京店長 雑穀アドバイザー 調理師 パクチー愛を広め、日本の食文化に根付かせるため、2018 年より「旅するパクチー」として活動開始。 2019 年 8 月より、農家さんと飲食店をつなぐ「シェアパクチー」をスタート。
youtube チャンネル:パクチューブ