小麦の使用用途には主に、①麺、②薄く伸ばして包む餃子(チベットのモモ、モンゴルのボーズなど)、③パン(焼く、蒸す、揚げる)がある。今回は、パンに注目してアジア特有の麦文化を考察していく。
パン文化の多様性と地理
パンというと、小麦でふっくら焼いた西洋のパンをイメージしがちだが、世界には実に多様なパンがある。「パンの文化史」(舟田 詠子)によると、「(パンは)生の穀物を粉にして水でこねたものを熱して(焼く、蒸す、揚げる)固形になったもの」と定義されている。この定義によると、小麦粉だけではなく、米粉や雑穀、そば粉で作られるものもパンに分類される。
穀物利用の歴史を見ると、穀物の粒をそのまま炊いて食べる粒食に始まり、やがて石臼やサドルカーン(石でできた板と棒で、間で擦り合わせてつぶす)など、粉に挽く技術が発達し、…