※第1号は、無料購読にお申し込み頂いた方にもサンプルとしてお送りしております。次号以降を受け取るには、有料購読への以降をお願い致します。
ブータンは北をチベットと南をインドに挟まれたヒマラヤの王国。本当の豊かさはGDP(Gross Domestic Products:国内総生産)ではなく、GNH(Gross National Happiness:国民総幸福)であるという考えのもと、世界一幸福な国として知られているのは有名な話だ。
そんなブータンは、実は九州と同じくらいの大きさ。急嶺な山に阻まれ、亜熱帯の低地から高度5000mの寒帯まで、多様な植物相と生活様式が存在する。小国ではあるけれど、「山のシワをまっすぐ地図上に伸ばすと、その表面積は中国をも凌ぐ」と彼らは誇らしげに話す。
私は院生時代にブータンの伝統農法を研究していて、半年間で東部にある30の村をまわり、約60の農家にインタビューをした。宿がないため一般家庭を泊まり歩き、各家庭で手料理も頂いていた。ブータンには名字がなく、◯◯家といった一族概念が薄い。学校から遠い村では親戚の子を預かることも多々あり、抵抗なくいろんな子の面倒を見ていて、殆どの村が私のような異邦人も歓迎してくれた。食卓には常に家族や友達の姿があり、「口福」は「幸福」の秘訣なのだと感じたことを覚えている。昭和初期の日本も、こんな感じだったのかもしれない。
ブータン人が日々食べているもの
“To zawa mo?”
「ご飯食べた?(”to”=米)」とは、ブータン東部のシャショップと呼ばれる民族の挨拶だ。インドネシア語の「Sudah makan?」中国語の「吃饭了吗?」もだが、アジアでは食がコミュニケーションの一部になっている。
ブータンには産業といわれるものがほとんどなく、大きな工場もスーパーも、信号機もない。国民の6割が農家で、半自給自足の生活をしながら、市場で売り買いをする。山の民は森の産物をロバに乗せて平地に降りてきて、平地でしか作れない米と交換してまた山に帰っていく。
東部では主食のコメと同じくらいトウモロコシが栽培されている。その大半はトウモロコシのどぶろく「バンチャン」に消えると言われ、畑仕事の傍らこのバンチャンを水のように飲むのが習わし。「お腹の大きさがGNHの指標」とのジョークもあるほどだ。
ブータンの家庭料理は、主食のご飯と一緒に食べる副菜が数品加わる。ジャガイモや唐辛子をヤクのチーズで和えたエマダツィとケワダツィは外せない定番で、ヤクの干し肉や卵焼き、野菜炒め、スープなどが並ぶ。
また、唐辛子とチーズ抜きにブータンの食は語れない。朝から、泣くほど衝撃的な辛さのスープが出てきて一気に目がさめたこともある。ブータン人の味覚は辛味が中心にできていて、唐辛子が入ってないことは、旨味のないスープくらいのがっかり感なのだと聞いた。日本から持ってきた味噌汁を作ってあげた時、「味がしない」といって、唐辛子をたっぷり入れられてしまったのには笑ってしまった。そんな痛いほど辛い食べ物に、まったりとろけるチーズを合わせるのがブータン流。なんとも不思議な食文化だなと思う。
病を直すのは、植物の力を知っているローカルヒーラー
医大のないブータンでは、医者になるためには、インドの医大に留学しなければならない。大きな街の医者は、インド人の軍医であることも多い。街にでないと病院がないため、各家庭の庭には多くの薬草が植えられている。なかには、牛が病気になった時のための薬草もあったた。いざというときは「ローカルヒーラー」と呼ばれる伝統医が頼られている。
ある日、ローカルヒーラーから伝統医術を学んだという少女・トゥルシーお庭を案内してもらった。トゥルシーの出身は、車が入れる道から3日歩かないとたどりつけないLauri村。電気も、車道も、病院もスーパーもない。食料や医療もほぼ自給自足のこの村には薬草師やシャーマンがいて、病気になったときは、薬草の処方やまじないをしてくれるという。彼女は、このむらで薬草を学んだ。
「これは、牛の胃薬につかう草、これは、マラリアのお薬、こっちは血止め草。私たちの家の庭には、いざというときに使えるお薬をたくさん植えてあるのよ」庭を歩き回りながら、トゥルシーは言う。
健胃薬として用いられる野草はカレーに入れて食べる。アカネ草は白髪のおしゃれ染めに使われる。根をすりつぶし、煎じて使うマラリアの薬もある。彼女の庭は、天然の薬箱だ。
とりわけ重要視されているのが、日本でも育てられていることが多い、万能薬とされる「トゥルシ―」という薬草だ。庭の中でも台座のように盛り上がったところに植えられ、神棚に飾られたりと、神聖なものと扱われている。
裏庭のさらに奥に続く半分放置されたエリアには、木ノ実やわらびなどの山菜が収穫されていた。自然である「森」と人間が住む「村」の間に位置する、日本でいう「里山」に近い領域がブータンにもあるのだと感じた。
幸せの定義は色々あれど、”美味しい幸せ”を味わえるブータンのレシピ
「幸せの国ブータン人は幸せでしたか?」帰国後、そう聞かれることがは多い。でも、幸せとは、結局なんだろうか。
ブータンでは、医療も産業も交通も十分ではない。その分税金がなく、教育も医療も無料で受けられる。国民の大半が自給自足な生活をしているため、食べるものには困らず、お金に困ることもなく、家を建てる時は、村全体で協力して建てる。
家族や友達が多いと幸せなのだろうか。それとも、好きな仕事ができて、好きなものを買えるのが幸せなのだろうか。幸せの形は人それぞれだ。
最後に、ブータンで食べた美味しい料理のレシピを紹介する。幸せの定義はさまざまなれど、美味しいものを食べたときの幸せは全国共通だ。ぜひブータンの幸せ気分を味わって頂きたい。
ピリ辛ブータンサラダ、Ezay(エヅィ)
インドのようにスパイスの種類はそれほど多くない。塩胡椒くらいで、チーズに唐辛子が入ると一気にブータン風になる。
<材料>
赤玉ねぎ 1/2個
トマト 1個
カッテージチーズ 100g
乾燥唐辛子 50g
パクチー 50g
しょうが 少々
山椒、塩 少々
<作り方>
玉ねぎ、トマトを細かく切り、生姜はみじん切りにする。
乾燥唐辛子の種を取り、油で揚げる。よく油を切って、細かく刻む。
1と2に刻んだカッテージチーズを加え、塩、参照で味を整える。
山菜のチーズ和え、Nakey datsi(ナケイ・ダツィ)
<材料>
わらび ひとたば(100g程度)
チーズ 100g
バター 50g
唐辛子 8本
塩 少々
<レシピ>
わらびを酢水に浸す。
わらびの毛をとりのぞく。
硬い部分を切り落とし、5cmの長さに揃えて切る。
鍋にわらびとバター、唐辛子を入れ、完全につかるまで水を加える。柔らかくなるまで煮込み、塩を加える。
最後にチーズを加えてかき混ぜ、玉ねぎの葉とコリアンダーをトッピングしてできあがり。
もっとブータンを知りたい人にオススメの参考資料
Druk Girl —ブータンのyoutuberが紹介するブータン料理https://www.youtube.com/channel/UC6jj3kTBzfGeOVCqpfuP8fg
『Chili and Cheese: Food and Society in Bhutan』by Kunzang Choden
英語で書かれたブータンの食文化に関する本
ダイヤモンド社『地球の歩き方 フロンティア113 ブータン 』
読み物としても面白いガイドブック
執筆:前田知里(@satoyama_library) 編集:杉田真理子(@mariko_urbannomad)
コメントや質問は、以下より投稿頂けます。次号以降は、有料購読の方のみフォーラムへの投稿が可能です。
ブータンの家庭料理ではわらびとチーズを組み合わせるんですね〜。新鮮な組み合わせ、是非試してみたいです。
幸福度No.1の国が、現代のテクノロジーとどのように共存し発展していくのか、興味のあるところです。
楽しみな企画に期待しています。長丁場ですので、体調に気をつけて、ビスタレ・ビスタレで、面白いお話をお待ちしています。